古より伝わる王国の玉座。それは、ただの椅子ではなかった。背もたれは高く、王の威厳を象徴するかのよう。ゆったりとした揺れは、王の心を静め、深い思索へと誘う。
若き王子アベルは、今日もまた玉座に身を委ねていた。父王亡き後、未だ王としての実感が湧かない。民の声、迫りくる隣国の脅威、そして、古くからのしきたり。重圧に押しつぶされそうになる日々。
「アベル様、お茶の用意ができました」
侍女の声に、アベルはわずかに目を開けた。差し出されたのは、王室御用達の茶葉で淹れた香り高い紅茶。湯気が立ち上り、アベルの心をわずかに癒す。
「ありがとう」
アベルは紅茶を一口飲む。その瞬間、ふと、玉座の感触がいつもと違うことに気が付いた。それはまるで、優しい母親の腕に抱かれているかのような、安心感に満ちたものだった。
玉座は、ただの椅子ではない。王の心を映し出す鏡。アベルは、その揺れの中で、真の王となるための覚悟を決める。
立ち上がったアベルの瞳には、決意の色が宿っていた。
「さあ、行こう。私の王国を、民を守るために」
【次回予告】王子の新たな決意
このお話はフィクションであり架空の話です。
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